悪魔のいけにえは、1974年のアメリカ合衆国の映画。殺人鬼レザーフェイスの恐怖を描いたホラー映画の金字塔。アメリカでの公開は1974年10月4日、日本での公開は1975年2月。製作費は約4000万円。公開後から2006年9月まで、世界中で総額60億円以上の配給収入を上げ、監督・脚本・制作のトビー・フーパーはこの作品により全米及び英国への進出を果たしました。本作で大暴れした連続殺人鬼“レザーフェイス”を主人公にした続編が後に3本も作られ、マイケル・ベイ製作のリメイク版「テキサス・チェーンソー」も好評。
悪魔のいけにえ 映画批評・評価・考察
悪魔のいけにえ(原題:The Texas Chain Saw Massacre)
脚本:30点
演技・演出:17点
撮影・美術:19点
編集:8点
音響・音楽:8点
合計82点
近代スプラッターホラーのパイオニア的作品で、公開後に与えた社会的影響は相当なものだと言え、この作品の影響を受け、数々のスプラッターホラーが製作されていきました。また、シチュエーションやキャラクター相関なども後の作品で見受けられます。惨殺・残酷の描写イメージが強い作品ですが、実際の映像はほぼ一瞬であっさりしたものです。そのあたりがまたリアリティがあって怖いんです。また、張りつめた緊張感のなか、ギャグとも見える描写がシュールだったりします。1974年公開作品ですので、『ゾンビ(1978年)』も『13日の金曜日(1980年)』もまだ生まれていない時代にこの衝撃的作品を生みだしたトビー・フーパーは偉大であり狂人(ほめ言葉)だとも思えます。
米国テキサス州に帰郷した5人の男女が、近隣に住む人皮のマスクを被った大男「レザーフェイス」に襲われ殺害されていく様子が描かれたホラー作品。真に迫った殺人の描写やそのプロットは後に数多くのフォロワーを生み、マスターフィルムがその描写の芸術性のためにニューヨーク近代美術館に永久保存されることとなった。
後のホラー作品との違いとして、本作ではBGMが一切使用されていないことや、チェーンソーでの殺害シーンでは直接的な切断描写が存在しないことが挙げられる。特にBGMを使用せず効果音のみで場面を演出する手法は、本作のドキュメンタリー的演出の増強に一役買っている。
エド・ゲイン事件
この作品は、1957年にウィスコンシン州プレインフィールドで実際に発生したエド・ゲインによる猟奇殺人事件をモデルにしたということが通説になっているが、フーパー本人はこの事件については記憶が曖昧だとしており、ある評論家がエド・ゲイン事件に似通っている部分があると評したのがこのような説の流れた端緒である。映画冒頭部分のテロップ「これは真実の物語」は少しでも観客の恐怖を煽ろうと後づけで追加した演出であり、上記事件との関連はなかったが、別段否定もせず傍観していたところ、通説のほうが流布してしまい以降その通説が定着することになったという。
悪魔のいけにえ あらすじ(ネタバレ)
1973年8月、テキサス州では墓荒らしや異常な殺人事件が多発していた。そんな中、サリー・ハーデスティとその兄フランクリンを含む5人の男女は、帰郷がてら墓の無事を確かめるためにテキサス州を訪れる。一行はその道中で一人のヒッチハイカーを拾うが、彼はナイフで自傷行為に及びフランクリンに切りかかるなどの異常な行動を起こした。ヒッチハイカーを車から追い出してガソリンスタンドに辿り着いたもののガソリンは売っておらず、一行は帰りの燃料に不安を抱えた状態でハーデスティ家の実家跡に辿り着く。
一行から別れて川遊びに向かったカークとパムのカップルは、近くに自家発電装置を使う屋敷を発見。カークは屋敷の主にガソリンを分けてもらおうと考えたが、屋敷の奥から人面皮を被った怪人・レザーフェイスが現れて彼をハンマーで撲殺。カークの後を追って屋敷に入ったパムはレザーフェイスの手でミートフックへ吊るされてカークの死体が切り刻まれるところを見せつけられ、二人を探しに来たサリーの恋人ジェリーも冷凍庫へ閉じ込められたパムの凍死体を見つけた途端に撲殺される。日没後、車に残っていたハーデスティ兄妹は仲間たちを探しに向かうが、闇の中からチェーンソーを構えたレザーフェイスが現れフランクリンが惨殺される。サリーは森やレザーフェイスの屋敷を潜り抜けながら必死に逃げ惑った末にガソリンスタンドへ駆け込むが、店主の老人は彼女を助けるどころか袋詰めにしてレザーフェイスの屋敷へ連行した。一連の墓荒らしと殺人事件はレザーフェイス、老人、そしてヒッチハイカーらソーヤー一家の仕業だったのだ。
サリーはソーヤー一家の異常な食卓に連れていかれ、ミイラのような姿で生き永らえる一家の長・グランパの手で撲殺されそうになるが、一瞬の隙を突いて脱出する。ヒッチハイカーとレザーフェイスが追撃してきたものの、ヒッチハイカーはサリーともみ合っている最中に通りがかったトラックに轢かれて絶命。更にサリーはその場を通りがかった別の車の荷台へ乗り込むことに成功する。かろうじて生き延びたサリーは狂ったようにレザーフェイスを嘲け笑い、彼女を取り逃したレザーフェイスは朝焼けの中でチェーンソーを振り回す。
悪魔のいけにえ スタッフ
監督:トビー・フーパー
脚本:キム・ヘンケル,トビー・フーパー
製作:トビー・フーパー,ルー・ペレイノ
製作総指揮:ジェイ・パースレイ
音楽:ウェイン・ベル,トビー・フーパー
撮影:ダニエル・パール
編集:ラリー・キャロル,サリー・リチャードソン
配給:ブライアンストン・ピクチャーズ,日本ヘラルド映画
悪魔のいけにえ キャスト
サリー・ハーデスティ:マリリン・バーンズ
本作の主人公。フランクリンの妹でジェリーの恋人。墓荒らしが頻発していたことから、家の墓の無事を確かめるために帰郷を兼ねてテキサス州を訪れる。自分以外の仲間達がレザーフェイスに全員殺害され、自身も追われる中でドレイトンの営むガソリンスタンドへ逃げ込むものの、ソーヤー邸に連れていかれて一晩中監禁される。その後、隙をついて家の窓から飛び出し脱出する。レザーフェイスとヒッチハイカーに追われながらも偶然通り掛かったトラックの運転手に救われ、更に通りかかった別の車に乗り、最後は血塗れの姿でレザーフェイスを嘲笑しつつ逃げ延びる。
ジェリー:アレン・ダンジガー
サリーの恋人で、眼鏡をかけている。ドライブでは運転手を務める。暗くなっても戻って来ないカークとパムを探しにソーヤー邸に足を踏み入れ、冷蔵庫内で凍死したパムを発見し、その直後にレザーフェイスに殺害される。
フランクリン:ポール・A・パーテイン
サリーの兄。車椅子に乗っている。ヒッチハイカーがつけた血の跡を辿ろうとしたり、サリー達が廃墟へ入った際一人だけ置いてけぼりにされて機嫌を損ねたり、仲間達を探す際に懐中電灯を手放さずサリーと言い争いになったりするなど、精神的に不安定な様子が垣間見える。サリーと共に仲間達を捜索している最中、レザーフェイスに見つかりその場で切り刻まれる。続編『悪魔のいけにえ2』ではミイラ化した姿で登場した。
カーク:ウィリアム・ヴェイル
パムの恋人。車椅子のフランクリンの世話をしている。車のガソリンが無くなり、たまたま見つけたソーヤー邸でガソリンを分けてもらおうとするが、レザーフェイスにハンマーで撲殺され、最初の犠牲者となる。その後、遺体はパムの目の前で切り刻まれる。
パム:テリー・マクミン
カークの恋人。占い好きで占星術ができる。彼女の占星術は後に起きる災厄を予感してしまった。戻って来ないカークの様子を見にソーヤー邸の中に入ったところ、レザーフェイスが作った不気味な家具などを目撃してしまう。脱走しようとしたところをレザーフェイスに見つかり、フックで吊るされた後、冷蔵庫の中に閉じ込められ死亡する。
ヒッチハイカー:エドウィン・ニール
本名はナビンズ・ソーヤー。ソーヤー一家の三男で『悪魔のいけにえ2』に登場するチョップトップの双子の弟。顔に血の跡のような大きなシミがある。落ち着きがなく、支離滅裂な言動を繰り返している。テキサス州で頻発していた一連の墓荒らしの張本人。ヒッチハイクで通り掛かったサリー達の車に乗せてもらうが、フランクリンが愛用しているナイフで自身の手を切り刻んだり、フランクリンに向けて撮った写真を車内で燃やす等の異常な行動を取ったため、耐えられなくなった一行に無理矢理下車させられた。彼等の車が発進する際、車体に自分の血でメッセージを残していった。物語終盤、サリーを追いかけていた際に偶然通りがかったトラックに轢かれ死亡した。『2』ではミイラ化した姿で登場し、レザーフェイスやチョップトップにパペットの様な扱いをされる。
老人(コック):ジム・シードウ
本名はドレイトン・ソーヤー。ソーヤー一家の長男。普段は小さなガソリンスタンドとバーベキュー店を経営している。店の戸締りをして電気代を気にする、レザーフェイスがチェーンソーで家の扉を破壊してしまったことに激怒し説教するなど、他のソーヤー家のメンバーよりも人間くさい描写が存在するものの、彼の店にはバーベキューにされた人間の焼死体があり、それを目撃したサリーは彼も常人ではないことを悟った。レザーフェイスに追われ、自身のガソリンスタンドに逃げ込んだサリーを匿うふりをして彼女をホウキで殴り倒して気絶させた後、ソーヤー邸に拉致した。「どうも殺しは楽しめない」と発言するも、グランパがハンマーでサリーを殴った際には嬉々として囃し立てていた。
レザーフェイス:ガンナー・ハンセン
本名はババ・ソーヤー。ソーヤー一家の四男。人間の顔面の皮を剥いで作ったマスクを被った大男。先天性の皮膚病と梅毒を患っており、病気により醜くなった自身の素顔を隠すため人皮のマスクを被っている。チェーンソーやハンマーで侵入者を惨殺し、殺した人間や動物を解剖して家具の材料に利用している。知的障害を患っているため精神年齢は8歳児程度しかなく、家のドアをチェーンソーで破壊してコックに怒られた時は彼に怯えてうずくまるなど、子どものような一面も垣間見える。夕食の支度など一家の家事を担っている。サリーの仲間たちを次々と殺害し、終盤逃げ出したサリーをチェーンソーで追いかけるが、たまたま通りがかったトラックの運転手に反撃され、脚をチェーンソーで負傷してしまう。結局サリーを取り逃がしてしまい、最後は朝焼けに照らされ、踊り狂うようにチェーンソーを振り回していた。劇中では場面ごとに3種類のマスク・服装で登場する。通常時は「Killing」と呼ばれる男性の顔のマスクと黄色の解体作業用エプロン、料理などの家事をする時は「Old Lady Mask(Grandma Maskとも)」と呼ばれる老年女性のマスクと調理用エプロン、正装時は「Pretty Woman」と呼ばれるピエロのような厚化粧のマスクと上下紺色のスーツをそれぞれ身につけている。
グランパ(じい様):ジョン・デュガン
ソーヤー一家の父。齢124歳。一見するとミイラのように見えるが、ちゃんと生きており口も聞ける。しかし自力では全く動けず、移動の際はソーヤー兄弟に椅子ごと運ばれている。かつては牛を一撃で仕留めるほどの屠殺の名人だったらしく、過去には5分間で60頭もの牛を仕留めたとされる(コック曰く、もっと牛が届いていれば60頭を越していたとのこと)が、現在は異常な高齢のせいで握力がほとんど失われており、ろくにハンマーも握れない。
カウボーイ:ジェリー・グリーン
冒頭に登場したカウボーイ。サリーに保安官を紹介する。
ナレーター:ジョン・ラロケット