サー・アンソニー・ホプキンス(Sir Anthony Hopkins, CBE, 1937年12月31日 – )は、イギリス出身の俳優、作曲家、画家。『羊たちの沈黙』(1991年)で演じた精神病質のハンニバル・レクター博士役が高く評価され、この作品でアカデミー主演男優賞を受賞した。その後も、続編『ハンニバル』(2001年)や『レッド・ドラゴン』(2002年)で同じくレクター役を演じている。
ウェールズ地方ウェスト・グラモーガン州の港町ポート・タルボットで生まれる。パン屋の一人息子だったが、十代の頃から演じることに興味があった。ウェールズの演劇学校で学んだあと、陸軍に入隊。除隊後に再びロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ドラマティック・アートで演技を学び、舞台俳優としてキャリアをスタートさせた。舞台で培われた卓越した重厚感、気品と知性溢れる存在感は映画においても遺憾なく発揮され、1968年に映画初出演となった『冬のライオン』では、ピーター・オトゥールやキャサリン・ヘプバーンと共に堂々たる演技を見せ、鮮烈なデビューを果たした。
1977年に、リチャード・アッテンボロー監督の『遠すぎた橋』で将校役の一人として出演すると、翌年には同監督の作品である『マジック』に主役として出演し、評価を高める。1980年には、デイヴィッド・リンチ監督作品『エレファント・マン』にドクター役で出演。1991年に『羊たちの沈黙』で演じたハンニバル・レクター博士役の名演技が高く評価され、この作品でアカデミー主演男優賞を受賞した。その後も続編である『ハンニバル』、『レッド・ドラゴン』で同じレクター役を演じ、自身にとっては最大の当たり役となった。その後も、ノーベル文学賞受賞作家のカズオ・イシグロが書いた小説の映画化である『日の名残り』や、オリバー・ストーン監督の『ニクソン』、スティーヴン・スピルバーグ監督の『アミスタッド』等でアカデミー賞にノミネートされ、高い評価を獲得し続ける。
2006年にはゴールデングローブ賞で生涯功労賞にあたるセシル・B・デミル賞を受賞。2019年に『2人のローマ教皇』で22年ぶりのアカデミー助演男優賞候補となり、翌年には『ファーザー』で認知症を患った老人を演じ、二度目のアカデミー主演男優賞を受賞し、同部門における最年長受賞者となった。周囲も本人も予想外の出来事であり、授賞式の当日はウェールズに滞在していた。『8月の誘惑』では監督業にも進出した。
「演技というものは絵空事であって、その要素はすべてシナリオの中にある」というのが持論で、どのような役であっても特別にリサーチして演じることはないとされる。これは役柄の徹底的なリサーチに基づいたリアリティを追求するロバート・デ・ニーロなどの俳優主体ともいえる演技スタイル(メソッド演技法)と対極にあるともいえ、デ・ニーロ等のアプローチを批判し「馬鹿げている」と罵ったことでも有名。その持論ゆえ、脚本家の書いた台本(シナリオ)のチェック・暗記は徹底的に行い、その台詞などを忠実に再現した上で撮影の際にはきわめて自然で役柄本人になりきっているかのような卓越した演技力を発揮する。