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博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
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博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったかは、1964年公開のイギリス・アメリカ合衆国合作映画。核戦争の恐怖と現実の不条理を第一級のブラック・コメディに仕立てた異色作。ピーター・ジョージの「赤い警報」(架空政治小説)を彼自身とスタンリー・キューブリック、テリー・サザーンが共同で脚色、「ロリータ」のスタンリー・キューブリックが製作・監督した空想政治ドラマ。

博士の異常な愛情 映画批評・評価・考察

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか(原題: Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)

脚本:40点
演技・演出:20点
撮影・美術:20点
編集:10点
音響・音楽:10点
合計100点(満点)

『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』などの作品で熱狂的なファンをもつ鬼才スタンリー・キューブリックが、核戦争の恐怖と現実の不条理を第一級のブラック・コメディに仕立てた異色作。怪優ピーター・セラーズが得意の七変化で一人三役を演じ、一際異彩を放っている。

キューバ危機によって極限状態に達した冷戦の情勢を背景に、偶発的に核戦争が勃発し、人類滅亡に至るさまを描くブラックコメディ。政府や軍の上層部はほぼ全員が俗物ないし異常者として描かれる風刺劇でもある。


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博士の異常な愛情 あらすじ(ネタバレ)

冒頭にアメリカ空軍による「映画はフィクションであり、現実には起こりえない」との趣旨の解説が流れる。

ある日、アメリカ空軍戦略航空軍団第843爆撃隊が所属するバープルソン空軍基地の司令官リッパー准将が精神に異常をきたし、警戒飛行中だった第843爆撃隊のB-52戦略爆撃機34機に対して、本来政府中枢が敵の先制攻撃を受けて混乱した場合に下級指揮官が独自の判断でソ連への報復核攻撃を行うことができる「R作戦」を実行するよう命令すると、基地に戦時体制を発令して立て篭もった。バープルソン空軍基地に派遣されていたイギリス空軍のマンドレイク大佐は偶然にも戦争状態でないことを知り、リッパー准将にB-52を引き返させるよう進言するが拒否される。マンドレイク大佐は自身の権限によってB-52を引き返させようとするが、逆にリッパー准将が閉じこもる執務室に軟禁されてしまい、リッパー准将の話し相手となる。「R作戦」に従いソ連への攻撃に出撃したB-52には、それぞれ第二次世界大戦で使用された全爆弾・砲弾の16倍の破壊力がある核兵器が搭載されていた。

バープルソン空軍基地の状況とB-52出撃を知ったアメリカ政府首脳部(マフリー大統領、タージトソン将軍を始めとする軍高官、大統領科学顧問兼兵器開発局長官のストレンジラヴ博士など)は、ペンタゴンの戦略会議室に集結して対策を協議する。マフリー大統領はあえて駐米ソ連大使のサデスキーを呼ぶことにし、機密漏洩を危惧して反対するタージトソン将軍を押し切ってサデツキー大使を会議室に招く。マフリー大統領はサデスキー大使同席の元、ソ連首相にホットラインで爆撃機の件を告げ、もしアメリカ側がB-52の呼び戻しに失敗した際は、それらを撃墜するよう依頼する。しかし、直後にホットラインを代わったサデツキー大使は、ソ連首相から、核攻撃を受けた場合、数十発のコバルト爆弾を自動で爆発させることで半減期が極めて長い放射性降下物を発生させ、地球上の全生物を絶滅させる「皆殺し装置(終末兵器の一種)」を実戦配備したことを告げられる。サデツキー大使から皆殺し装置のことを告げられたマフリー大統領は解体できないのかと聞くが、サデツキー大使はもし解体しようとすれば作動してしまうことを告げる。マフリー大統領になぜそれを作ったのかを聞かれ、「反対もあったが、軍拡競争や宇宙開発競争に比べれば一番安く済む」「アメリカも同種のシステムを作っていると聞いた。こちらも持たなければ困る」と言うサデツキー大使の言葉を聞いたマフリー大統領は、ストレンジラヴ博士に本当に皆殺し装置を作っているかどうかを聞く。ストレンジラヴ博士は自分も皆殺し装置の製作を検討したがこれは戦争回避には役立たないと判断したと言いつつ、皆殺し装置の構造を淡々と解説する。しかし、ストレンジラヴ博士にも解けない疑問があり、そこに至ると博士は興奮して「皆殺し兵器はその存在を公表しなければ意味をなさない。それなのにソ連はなぜ公開しなかったのか!」とサデツキー大使に迫る。サデツキー大使は「近日公表する予定だった。首相は人を驚かすのが趣味だ」と説明した。この協議が続いている間にもリッパー准将麾下のB-52は進撃を続けていた。

「R作戦」を命令された際、B-52の一般通信回路は敵の謀略電波に惑わされないために、規定に従い「CRM114」(以下、CRM装置)と呼ばれる特殊暗号無線装置に接続される。このCRM装置は通信をまったく受け付けず、従って通常の場合爆撃機を引き返させることは不可能であった。CRM装置は例外として3文字の暗号を送信することによって解除できるのだが、その暗号は当のリッパー准将しか知らず、総当たり方式でも暗号は1万7000通りあるため、該当暗号を特定するためには2日半かかってしまう。

アメリカ政府はリッパー准将からCRM装置の暗号を聞き出すため、バープルソン空軍基地にアメリカ陸軍の空挺部隊を向かわせるが、戦時体制下にある基地内のアメリカ兵は空挺部隊を味方に偽装した敵部隊であるとして攻撃を開始し、味方同士による戦闘が開始される。リッパー准将はマンドレイク大佐に、水道水フッ化物添加は共産主義の謀略だという陰謀論を延々と話すが、その後いよいよ兵士が准将の執務室に迫ってきたという時、大佐に日本人から拷問を受けた話を聞き、自分は耐えられそうもないと言ってバスルームで自殺してしまう。

その後、リッパー准将の話を分析したマンドレイク大佐によってB-52のCRM装置の暗号が解読される。マンドレイク大佐はリッパー准将を連行しにやってきた陸軍のグアノ大佐を半ば脅迫し、コカ・コーラの自販機を撃ち抜かせて電話代を手に入れると、ペンタゴンの戦略会議室に暗号を通報する。この暗号を使用して戦略航空軍団司令部はB-52に攻撃中止を命令することに成功し、その時に応答があった30機のB-52が基地へと引き返し始めた。残りの4機はソ連側の迎撃に遭って撃墜されたものと思われていたが、そのうちコング少佐らが乗り込むB-52だけは対空ミサイルを被弾して損傷しながらも進撃を続けていた。しかも被弾時にCRM装置の機密保持装置が作動した結果、CRM装置が通信回路もろとも自壊してしまったため、帰還命令を受信出来ないままであった。

レーダーに捕捉されないよう低空飛行を続けたことにより燃料を浪費して当初の目標地点への攻撃ルートでは脱出する燃料がないため、コング少佐たちのB-52は最も近いICBM基地への攻撃に切り替え、ソ連への核攻撃を行う。断線によって爆弾の投下口が開かない非常事態に、熱血漢のコング少佐は核爆弾にまたがりながら配線を再接続するが、故障が直るや否や爆弾は投下されてしまい、コング少佐はカウボーイよろしく爆弾にまたがったまま落ちてゆく。そして、投下された核爆弾はコング少佐諸共炸裂した。

皆殺し装置が起動し、人類を含む全生物が10ヶ月以内に絶滅することに一同が暗澹とする中、ストレンジラヴ博士は選抜された頭脳明晰な男性と性的魅力のある女性、そしてもちろん国家の指導部を地下の坑道に避難させることにより人類を存続させうると熱弁をふるう。タージドソン将軍は博士の「地下帝国」案を激賞するとともに、「ソ連も地下帝国を準備しているかもしれない。地下帝国競争でも我々は勝たねばならない!」と叫ぶ。一方、サデツキー大使は身についたスパイ根性が抜けず、隙をみて隠しカメラで戦略会議室の作戦パネルを撮影する。ストレンジラヴ博士は自分の「地下帝国」案に興奮するあまり車椅子から立ち上がり、「総統!私は歩けます!」と絶叫する。ラストはヴェラ・リンが歌う第二次世界大戦時代の流行歌『また会いましょう』の甘いメロディが流れる中、核爆発の映像が繰り返し流され、人類滅亡を暗示させるシーンで終わる。

博士の異常な愛情 スタッフ

監督:スタンリー・キューブリック
脚本:スタンリー・キューブリック,ピーター・ジョージ,テリー・サザーン
原作:ピーター・ジョージ『破滅への二時間』
製作:スタンリー・キューブリック,ヴィクター・リンドン
音楽:ローリー・ジョンソン
撮影:ギルバート・テイラー
編集:アンソニー・ハーヴェイ
配給:コロンビア ピクチャーズ

博士の異常な愛情 キャスト

ストレンジラヴ博士ピーター・セラーズ
大統領科学顧問・兵器開発局長官。核戦争の専門家。かつてはナチス・ドイツの科学者で、ペーパークリップ作戦でアメリカに渡り帰化している。名前は帰化する際にドイツ名「Merkwürdigliebe」をそのまま英語に直訳したもの。足が不自由なため車椅子に乗っている。主人公ながら他の登場人物と比較しても出演シーンは短い。しかし、緊急事態にも薄気味悪い笑みを浮かべて終始一貫して恐れを見せず、むしろ楽しげに持論を披露し、何度も大統領を総統と呼び間違え、興奮気味になると義手の右手が勝手に動きそうになり、それを左手で何とか押さえつけるなどの奇行(エイリアンハンド症候群)が目立つ。

マンドレイク大佐ピーター・セラーズ
イギリス空軍大佐で、バーブルソン空軍基地への派遣将校。たまたまつけたラジオで戦争状態ではないことを知り、何度もリッパー准将の「越権行為」を正そうとする。過去に遭った事故により、片足が義足だという。もの静かな人物で機関銃の扱い方はわからない。第二次世界大戦中にビルマにおいて日本軍に拷問され、口を割らずにラングーン鉄道で線路を敷かされた経験があるらしい。この経験からか日本人を「ブタ」と罵倒しつつも「良いカメラを作る」と述べている。

マフリー大統領ピーター・セラーズ
アメリカ合衆国大統領。作中では数少ないまともかつ真面目な人物で、緊急事態において周囲に振り回される。

タージドソン将軍ジョージ・C・スコット
アメリカ統合参謀本部議長(劇中では「将軍」と呼ばれるだけで階級や役職名、所属は言及されていないが、階級章や劇中の人物の発言から空軍大将であると推察できる)。リッパー准将に劣らぬ反共主義者にしてジンゴイスト。皆殺し装置の話を聞くまでは、リッパー将軍による常軌を逸した行動に乗じて報復される前にソ連に先制核攻撃すべきだとの強攻策を熱弁するタカ派であったが、爆撃機が撤退を開始したと聞くと皆に呼びかけて神に祈りを捧げる一面も持つ。会議中にやたらとガムを噛み続けたり、熱弁中に勢いあまって後ろに転ぶも立ち上がり、なおも熱弁する(これはヒトラーが演説中に興奮したときの癖と同じ)。

リッパー准将スターリング・ヘイドン
アメリカ空軍戦略航空軍団・バープルソン空軍基地司令官。常軌を逸した国粋主義者で、反共や反ソが極限に達し妄想に取り付かれた挙句、独断で基地に所属する爆撃機部隊にソ連への核攻撃を命令し、空軍基地に篭城する。そして顔色一つ変えず「共産主義者によって既にアメリカは侵食されている」「水道水フッ化物添加はアメリカ人の体内の『エッセンス』を汚染する陰謀だ」という陰謀論をマンドレイク大佐に説く。基地に空挺部隊が侵攻してきた際には、機関銃の銃身を素手で持って連射するという力業を発揮する。モデルはキューバ危機の際、全面核戦争を覚悟してでもキューバ空爆を行うべきだと主張したカーチス・ルメイ空軍参謀総長。ジャック・D・リッパーという名前は、「切り裂きジャック事件」(ジャック・ザ・リッパー)をもじっている。

コング少佐スリム・ピケンズ
リッパー将軍の部下でB-52のパイロット。血気盛んに核爆弾と共にソ連に投下され殉職する。当初、このキャラクターもセラーズが演ずる予定だったが、撮影中の事故による負傷のため役を降り、ピケンズが代役を務めた。

“バット” グアノ大佐:キーナン・ウィン
アレクセイ・デ・サデスキー ソ連大使:ピーター・ブル
ロザー・ゾッグ少尉 / ソギー:ジェームズ・アール・ジョーンズ
ミス・スコット:トレイシー・リード
スティンズ:ジャック・クレリー
ディートリッヒ:フランク・ベリー
カイベル:グレン・ベック
エース:シェイン・リマー
ゴールディ:ポール・タマリン
フェイスマン:ゴードン・タナー

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