ベニスに死すは、1971年公開のイタリア・フランス・アメリカ合衆国合作映画。イタリアの巨匠ルキーノ・ヴィスコンティ監督の傑作。原作はノーベル文学賞にドイツの文豪トーマス・マンの小説を映画化した作品で、美少年タジオに心を奪われた高名な作曲家アシェンバッハの苦悩と恍惚を、耽美な映像のなかに描き出す。
ベニスに死す 映画批評・評価・考察
ベニスに死す(原題:Death in Venice)
脚本:36点
演技・演出:18点
撮影・美術:18点
編集:8点
音響・音楽:10点
合計90点
同性愛がテーマではなく、究極の美の虜になってしまった音楽家の男の運命を描いています。美少年タッジオは、漫画ベルセルクのグリフィスのモデルになったと考察できる美貌と演出が観えます。また、グスタフはゲノン提督のモデルだと思えます。ベルセルクを知らない人からしたらどうでもよい話かもしれませんが。。。
グスタフ・マーラーの音楽について
テーマ曲にグスタフ・マーラーの交響曲第5番の第4楽章「アダージェット」を使用し、マーラー人気復興の契機となったことでも名高い映画です。
マーラーの交響曲第5番の第4楽章「アダージェット」は、もともとは作曲者が当時恋愛関係にあり、のちに妻としたアルマにあてた、音楽によるラブレターです。この映画の感情的表現において、ほぼ主役ともいえる役割を果たしました。演奏は、フランコ・マンニーノ (Franco Mannino) 指揮・ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団。
原作者トーマス・マンは主人公グスタフ・フォン・アッシェンバッハを作家としていたが、モデルとしてはマン自身以外に、友人でもあった作曲家のグスタフ・マーラーも入っています。ゆえに監督のルキノ・ヴィスコンティがマーラーの音楽を使い、主人公をマーラーをモデルとした作曲家に変更したのは、恣意的な変更とは言えません。また、同時代の作曲家でありマーラーと親交のあったアルノルト・シェーンベルクをもアルフリートという名で登場させています。2人の「美」についての論争は、この映画全体に満ち溢れる「対比」の主体軸です。
今作品はAmazonプライムで見ました。
ベニスに死す あらすじ(ネタバレ)
1911年のヴェニス(ヴェネチア)。ドイツ有数の作曲家・指揮者であるグスタフ・アシェンバッハ(ダーク・ボガード)は休暇をとって、ひとりこの水の都へやってきた。蒸気船やゴンドラの上で、さんざん不愉快な思いをしたアシェンバッハは、避暑地リドに着くと、すぐさまホテルに部屋をとった。サロンには世界各国からの観光客があつまっていた。アシェンバッハは、ポーランド人の家族にふと目をやった。母親(シルヴァーナ・マンガーノ)と三人の娘と家庭教師。そしてアッシェンバッハは、母親の隣りに座った一人の少年タジオ(ビヨルン・アンデルセン)に目を奪われた。すき通るような美貌と、なよやかな肢体、まるでギリシャの彫像を思わせるタジオに、アシェンバッハの胸はふるえた。その時からアシェンバッハの魂は完全にタジオの虜になってしまった。北アフリカから吹きよせる砂まじりの熱風シロッロによってヴェニスの空は鉛色によどみ、避暑にきたはずのアシェンバッハの心は沈みがちで、しかも過去の忌わしい事を思い出し、一層憂鬱な気分に落ち込んでいった。ますます募るタジオへの異常な憧憬と、相変らず重苦しい天候に耐え切れなくなったアシェンバッハは、ホテルを引き払おうと決意するが、出発の朝、朝食のテーブルでタジオを見た彼の決意が鈍る。だが駅に着くと、自分の荷物が手違いでスイスに送られてしまったため、アッシェンバッハはすぐにホテルに引き返した。彼の心は、タジオと再会できる喜びでうちふるえていた。彼はもう、タジオへの思いを隠そうともしなかった。タジオの行く所には、常にアシェンバッハの熱い眼差しがあった。タジオもそのことに気づき始めているようだ。しかしこの頃、ヴェニスには悪い疫病が瀰漫しはじめていたのだ。街のいたる所に、消毒液の匂いが立ちこめ、病いに冒され、黒く痩せ衰えた人々が、行き倒れになっていた。しかし、観光の街ヴェニスにとって旅行者に疫病を知られることは死活問題であり、地元民はそれをひた隠しにした。そのことを何とか聞き出したアシェンバッハは、それが真性コレラであることを知った。それでも彼はヴェニスを去ろうとはしなかった。彼は身も心もタジオの姿を追い求めて彷徨っていた。タジオのために、化粧をほどこし、若づくりをするアッシェンハッハだったが、コレラに冒され、極度の精神的疲労も加わり、彼の肉体は急速に衰えていった。浜辺の椅子にうずもれたアシェンバッハの目に、タジオのあの美しい肢体が映った。海のきらめきに溶け込んでゆくかの如きタジオの姿に、アシェンバッハの胸ははりさけんばかりとなる。そうして最後の力をふり絞って差しのべた手も力尽き、アッシェンバッハは、タジオの姿を瞳に焼き付けながら、遂に息絶えるのだった。
ベニスに死す スタッフ
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
脚本:ルキーノ・ヴィスコンティ,ニコラ・バダルッコ
原作:トーマス・マン著「ヴェニスに死す」
製作:ルキーノ・ヴィスコンティ
製作総指揮:マリオ・ガロ,ロバート・ゴードン・エドワーズ
音楽:グスタフ・マーラー
撮影:パスクワーレ・デ・サンティス
編集:ルッジェーロ・マストロヤンニ
配給:ワーナー・ブラザース
ベニスに死す キャスト
グスタフ・フォン・アッシェンバッハ:ダーク・ボガード
タッジオ:ビョルン・アンドレセン
タッジオの母:シルヴァーナ・マンガーノ
ホテル支配人:ロモロ・ヴァリ
アルフリート:マーク・バーンズ
タッジオの家庭教師:ノラ・リッチ
アッシェンバッハ夫人:マリサ・ベレンソン
理容師:フランコ・ファブリッツィ
銀行家:ユーセロ・ボニーニ・オラス
エスメラルダ:キャロル・アンドレ
両替所(cook’s cambio)の従業員:レスリー・フレンチ
ヤシュウ:セルジオ・ガラファノーロ
英国人観光客:ドミニク・ダレル
ロシア人観光客:マーシャ・ブレディト
タッジオの姉:エヴァ・アクセン
駅で気絶する男:マルコ・トゥーリ