お葬式は、1984年公開の日本映画。厳粛な儀式であった葬儀を取り上げた作品で、初めて出す葬式に右往左往する家族と周囲の人びとの姿をコミカルに描き、暗いタイトルにもかかわらず作中には笑いが溢れるギャップが大きな話題を呼んだ。そのタイトルだけでメジャー映画会社はどこも配給を断った。公開当初は不謹慎な題材を扱っていたとして期待されなかったが、予想を覆すヒットを記録。結局はATGの親会社である東宝の番線に乗って全国公開となった。日本アカデミー賞を始めとする各映画賞を総なめにした。伊丹が妻・宮本信子の父親の葬式で喪主となった実体験をもとに、わずか1週間でシナリオを書き上げ、自身の初監督作品として撮影した。製作費は1億円(配給収入は12億円)。以前、伊丹自身がCM出演した愛媛県の菓子会社・一六本舗が出資している。
お葬式 映画批評・評価・考察
お葬式(おそうしき)
脚本:37点
演技・演出:18点
撮影・美術:16点
編集:9点
音響・音楽:6点
合計86点
独自の視点や切り口・演出で国内のみならず米国や欧州の映画通を唸らす作品を数多く送り出した伊丹十三の初監督作品になります。自身の体験から、着想を得てタブーとされている葬式を描くという当時としては画期的な映画でした。
お葬式の模擬体験ができる映画でありながら、コメディにエロスも加えてエンタメとして楽しめる作品に仕上げています。初監督でここまでの作品を作り上げる監督は、もう現れないかもしれません。検索キーワードで お葬式 立ちバックの検索数の多さ。邦画歴代のラブシーンの中でも上位の印象です。
お葬式 あらすじ(ネタバレ)
井上佗助、雨宮千鶴子は俳優の夫婦だ。二人がCFの撮影中に、千鶴子の父が亡くなったと連絡が入った。千鶴子の父、真吉と母、きく江は佗助の別荘に住んでいる。その夜、夫婦は二人の子供、マネージャーの里見と別荘に向かった。一行は病院に安置されている亡き父と対面する。
佗助は病院の支払いを里見に頼み、20万円を渡すが、費用は4万円足らず、その安さにおかしくなってしまう。佗助にとって、お葬式は初めてのこと、全てが分らない。お坊さんへの心づけも、相場というのが分らず、葬儀屋の海老原に教えてもらった。別荘では、真吉の兄で、一族の出世頭の正吉が待っており、佗助の進行に口をはさむ。そんな中で、正吉を心よく思わない茂が、千鶴子をなぐさめる。
そこへ、佗助の愛人の良子が手伝いに来たと現れる。良子はゴタゴタの中で、佗助を外の林に連れ出し、抱いてくれなければ二人の関係をみんなにバラすと脅した。しかたなく、佗助は木にもたれる良子を後ろから抱いた。そして、良子はそのドサクサにクシを落としてしまい、佗助はそれを探して泥だらけになってしまう。良子は満足気に東京に帰り、家に戻った佗助の姿にみんなは驚くが、葬儀の準備でそれどころではない。
告別式が済むと、佗助と血縁者は火葬場に向かった。煙突から出る白いけむりをながめる佗助たち。全てが終り、手をつなぎ、集まった人々を見送る佗助と千鶴子。
お葬式 スタッフ
監督・脚本:伊丹十三
製作:岡田裕,玉置泰
プロデューサー:細越省吾
撮影:前田米造
音楽:湯浅譲二
モノクロ撮影:浅井慎平
照明:加藤松作
美術:徳田博
録音:信岡実
編集:鈴木晄
助監督:平山秀幸
特機:落合保雄
効果:小島良雄
現像:東洋現像所
協力:茂登山商店,西友,本田技研工業
製作:ニュー・センチュリー・プロデューサーズ,伊丹プロダクション
配給:日本アート・シアター・ギルド
お葬式 キャスト
井上侘助:山﨑努
主人公。作中での職業は俳優。葬式の事は何も分からず、最後のスピーチが憂鬱でたまらない。愛人の良子に駄々をこねられ、お通夜の前に茂みで渋々と性行為におよぶ。愛人がいたり、上記のように場を仕切ったりするのが苦手で、私生活では頼りがいがない性格。
雨宮千鶴子:宮本信子
侘助の妻。夫と同じく俳優。島倉千代子の「東京だよおっ母さん」のマネが得意。明るくさばさばしており、おっとりした性格。小学生の2人の息子がおり、妹・綾子の息子たちと葬式のある別荘で出会い、仲良くふざけあったりして騒がしく遊んでいる。
雨宮きく江:菅井きん
千鶴子の母。喪主を勤める。しっかり者で終始気丈に振舞い、葬式を取り仕切った。あがり性の侘助に代わり、最後の挨拶を務める。戦後夫婦で女郎屋を営んでいたが、仕事を任せられっぱなしで、女好きだったこともあり真吉には若い頃から手を焼かされていたが、慕っている。
雨宮真吉:奥村公延
千鶴子の父。東京の大病院の定期健診を受けて帰った夜、突如心臓発作に見舞われ、そのまま死亡してしまう。生前はかなりの倹約家だった。相当の好色家で、女郎屋を経営していた頃は、従業員である女郎に手を出したことがある。また千鶴子によると、娘を命名する時も自身の初恋相手の名前から「千鶴子」と名付けたという。
千鶴子の親族
雨宮正吉:大滝秀治
真吉の兄で千鶴子の伯父。少々ボケたところがあり、北枕の方角について一人考え悩む。加えて葬式の準備では、事あるごとに三河での葬式のやり方や作法の違いに「これはこうするんじゃないのかね?」と口を出しては侘助たちを悩ませる。出棺の際に親族を代表して挨拶する。三河では金融業や商事会社などを手広く経営する資産家として有名で、それらの代表取締役を担っている。7人兄弟だったが真吉が亡くなったため、唯一の存命者となった。
綾子:友里千賀子
千鶴子の妹。妊娠中でよく食べる。千鶴子の息子たちと同い年ぐらいの「おさむ」と「てっちゃん」(正しい名前は不明)という2人の息子がいる。
喜市:長江英和
綾子の夫。
茂:尾藤イサオ
千鶴子のいとこ。お通夜の食事の席では酒に酔って管を巻いている。正吉について「金は持ってるけど人の気持ちが分からん人、顔も見たくない大嫌いな人」と内心で嫌っている。
明:岸部一徳
茂の兄。茂とは対照的に笑い上戸らしくお通夜の食事の席では、隣りに座った茂が何か言うたびに「またシゲがよぉ、クククッ」といちいち笑っている。
黒崎:佐野浅夫
雨宮家の親族。作中では奥村、榊原と共に「三羽がらす」と呼ばれている。善人だが話が長いとのこと。本人によると健康の秘訣は、「キャベツともやしをボウルいっぱい少量の油で炒めて、それを毎日食べること」だという。
奥村:関山耕司
雨宮家の親族。作中では黒崎、榊原と共に「三羽がらす」と呼ばれている。酒豪で、本人は「日本酒一本です(他の種類の酒は飲まない)」と言っている。
榊原:左右田一平
雨宮家の親族。作中では黒崎、奥村と共に「三羽がらす」と呼ばれている。
侘助の関係者
里見:財津一郎
侘助・千鶴子夫婦のマネージャー。病院代として侘助から20万円を持たされたが、会計はたった3万5千円足らずだったことから、思わず笑ってしまう。侘助を陰からサポートした。
青木:津村隆
侘助の付き人。葬式の手伝いに来たついでにその準備の様子をスクーピック(16ミリフィルム)に収める。
斉藤良子:高瀬春奈
侘助の愛人。葬式の手伝いにやってきたが大酒を食らって奇声を発し、忙しいのにもかかわらず侘助に自分への愛情があるかどうかを確認をするなど侘助を困らせる。
葬式に関わる職業の人
海老原:江戸家猫八
葬儀業者。常にサングラスをかけた怪しげな風体だが、侘助夫婦にてきぱきとアドバイスを与え、葬式を成功に導く。それとなくお布施の相場を教える。
海老原の部下:加藤善博,里木佐甫良
住職:笠智衆
浄土真宗の名僧。ロールス・ロイスで斎場に乗り付ける。家具装飾の愛好家で、侘助の別荘にある手製テーブルに使われた、フランス製の高級タイルが余っていると聞いて譲り受ける。
猪ノ瀬:小林薫
火葬場職員。山間の閑静な火葬場であり、当日の利用者は雨宮家一組だけだったことから、特別にかまどで遺体が焼ける様子を侘助たちに見物させた。作中では、焼いている遺体が生き返る夢を見ることがあり、実際にガスで点火する時にそれが脳裏によぎるという思いを吐露している。
真吉のゲートボール仲間
岩切のおばあさん:吉川満子
真吉の友人。穏やかな口調の老婆だが、お通夜の食事の席で棺に入った真吉の遺体と対面して大号泣したため一瞬静まり返らせた。
老人会会長:香川良介
真吉のゲートボール仲間。真吉は上記の通り家族の間ではあまり良いイメージがないが、会長たちは、「品があってオシャレで、いつもニコニコしていて、ゲートボールも上手かった」と評している。
老人:田中春男
真吉のゲートボール仲間。お通夜の食事の席では、隣に座る小さい老人の通訳係のように大きな声で他の人の言葉を伝えている。
小さい老人:藤原釜足
真吉のゲートボール仲間。少々耳が遠い。作中では隣に座る老人から大きな声で伝えてもらった言葉に同意、あるいはオウム返しするようなセリフが多い。
近隣の人々
木村先生:津川雅彦
本編の主な舞台となる別荘の隣に住む精神科教授。真吉の危急に接し、東京の病院を手配する。
花村夫人:西川ひかる
葬式の手伝い役。特徴的な髪型。
木村夫人:横山道代
木村先生の妻。葬式の手伝い役。花村夫人やキヨちゃんと共に台所でお通夜の食事の料理や酒の準備をしている。しかし、翌日には葬式があるためあまり長くなると面倒なので、盛り上がっている三羽がらすたちを何とか早く帰らせようと画策する。
キヨちゃん:海老名美どり
ご近所に住み、千鶴子たちとも仲がいい。しっかり者。葬式の手伝い役。
フクちゃん:金田明夫
寿司職人でキヨちゃんの夫。キヨちゃんの尻にしかれている。侘助とウマがあう。
その他
木登り青年:利重剛
強風で飛んでいき、木に引っ掛かった紙幣を拾おうとした。
冠婚葬祭の先生:関弘子
侘助と千鶴子が挨拶などの勉強をするために視聴した葬儀マニュアル・ビデオに登場する講師役。
会計の女:中村まり子
病院の会計係。
助監督:黒沢清
侘助と千鶴子が出演するCMの収録を行う。
電報配達人:井上陽水