肉体の門は、1988年公開の日本映画。田村泰次郎の小説『肉体の門』5回目の映画化。かたせ梨乃や西川峰子ら、女優たちの潔い脱ぎっぷり、裸での絡みシーンも多く、五社映画らしい女同士の争いと男女の絡みシーンが話題となった。
肉体の門 映画批評・評価・考察
肉体の門
脚本:31点
演技・演出:15点
撮影・美術:17点
編集:8点
音響・音楽:7点
合計78点
女優たちの魂を感じる演技と五社英雄の演出と映像の凄みに呆気に取られました。
『肉体の門』原作者の田村泰次郎は従軍作家で、約5年以上中国の戦線で過ごし終戦を迎え、帰国直後に目にしたのが敵兵だった米軍に媚びを売り、体を売る女性たちの姿と多さに絶句したと思われます。田村に限らず、敗戦直後の男たちはこの現実にショックを受けたと思います。家族、幼馴染や同級生、憧れていた人が売春婦になっていたら、男たちの敗戦の絶望がそこら中にあったと思えます。
男たちの絶望が溢れる中、強い女性、夢を追う女性たちを描いたこの原作に、五社英雄監督の凄みは相性がとてもよかったと思います。クライマックスの純白のドレスで舞うかたせ梨乃の美しさと大爆発の余韻は見たものを圧倒するものでした。
肉体の門 あらすじ(ネタバレ)
終戦後、昭和22年、秋。米軍占領下の東京で、せん(演:かたせ梨乃)をリーダーにマヤ(演:加納みゆき)、花江(演:山咲千里)、美乃(演:長谷直美)、・光代(演:芦川よしみ)、幸子(演:松岡知重)と新入りの町子(演:西川峰子)たちは街娼、いわゆるパンパンをしていた。棲み家はどぶ川沿いの焼けただれたビルで、新橋を中心に関東一家と名乗っていた。ライバルは銀座の裏に棲むお澄(演:名取裕子)をリーダーとするラク町一家だった。焼けビル対岸一滞の闇市を仕切るやくざの袴田一家がせんたちを配下にしたがっていた。しかし、関東一家には巨大な不発弾という守り本尊があった。いつ爆発するかわからないので、やくざたちもうかつには近寄ることができなかったのだ。
秋も深まった秋の夜、一人の男が関東一家に逃げ込んできた。伊吹新太郎(演:渡瀬恒彦)というその男はかつての陸軍上等兵で、強盗を働いてMPに撃たれたのだった。せんは新太郎に、自分が初めて抱かれた男の面影を見た気がした。傷が癒えたころ新太郎は「一緒にここを出よう」とせんを誘ったが、断わられた。彼女には仲間たちと金を貯めて、ここにダンスホールを造るという夢があったのだ。ところが、ある日町子が一家の金を持ち逃げして袴田組についたため、せんたちはリンチにかけた。袴田(演:根津甚八)は戦前に兄弟分だった新太郎をさかんに組へ誘ったが、一匹狼となった彼は影ながらせんを見守っていた。
冬を迎えるころ、せんはお澄と打ちとける仲になっていた。彼女は母と妹を犯したロバートという米兵に復讐するため、パンパンに身を落としていたのだった。
袴田組のビルの追いたても激しくなったある日、新太郎は牛を一頭連れてきて、それをステーキにして酒宴となった。その夜、新太郎はマヤを抱き、二人は姿を消した。やがて関東一家の統率も乱れ、バラバラになった。そんなときお澄がロバートの復讐に失敗して、せんのところに逃げ込んできた。お澄はせんから挙銃をもらい、ロバートを撃ち殺すが、自らもMPの銃弾を受けてどぶ川へと沈んだ。
昭和23年1月、ビルには“オフ・リミット”の看板が掲げられ、せんが一人たたずんでいた。そこへ美乃とマヤが戻り、新太郎は袴田を殺し、一トン爆弾の信管を抜くために帰ってきた。そして、せんは袴田組の残党の前で不発弾のロープを切り、ビルごと爆発させたのだった。
肉体の門 スタッフ
監督:五社英雄
プロデューサー:厨子稔雄,天野和人
原作:田村泰次郎『肉体の門』
脚本:笠原和夫
企画:日下部五朗,佐藤雅夫
撮影:森田富士郎
音楽:泉盛望文
美術:西岡善信,今井高瑞,石原隆
編集:市田勇
録音:堀池美夫
スチール:中山健司
助監督:鈴木秀雄
照明:増田悦章
製作会社:東映京都
配給:東映
肉体の門 キャスト
浅田せん – かたせ梨乃
通称『関東小政(かんとうこまさ)』
彫留に左足の太ももに「関東小政」の文字と赤いバラの模様の刺青を入れてもらった。戦後ひとりぼっちになって、食べていくために仕方なく娼婦になった。自身は娼婦の仕事について、「持ってあと3年だろう」と見切りをつけている。
彫留によるとせんは、「3月10日の東京大空襲により家や家族を亡くし、自身は川崎の工場にいたため助かった。焼け野原で何日もお腹をすかせていた所、復員兵から白飯をもらいお礼に処女を捧げたその相手が後に伊吹だったことがわかった」とのこと。加えて女学校を卒業しているとも語られている。
初めての男である伊吹に恋心を抱いている。戦争を始めた男たちや敵国であるアメリカ人を激しく憎んでいる。
彫留 – 芦田伸介
入れ墨の彫り師。タバコの販売も行っている。せんたちのアジトそばの川に停泊させた小さな木造船を住居兼仕事場にしている。ちなみに作中では橋が壊れているため、この船の甲板を橋代わりに使われている。せんからは、「留さん」と呼ばれて慕われており、自身は父親のように見守っている。
伊吹新太郎 – 渡瀬恒彦
通称『コルトの新』
元陸軍上等兵。瀕死の状態でせんたちのアジトに倒れていたところを助けてもらった。戦時中はボルネオ島で戦い、人差し指を撃たれた。その影響で神経がやられたため、中指と薬指でタバコを持って吸っている。袴田とは若い頃に現在の袴田組のシマ辺りで、暴れまわった仲。普段はドスの利いた感情を抑えた話し方だが、生きた牛を盗んできてせんたちと食べるためにビルから突き落として死なせるなど時に豪快で荒い性格も見せる。
せんの仲間たち
菅マヤ – 加納みゆき
通称『ボルネオマヤ』
義理人情に厚く心優しい性格。戦争で兄をボルネオ島で亡くしている。瀕死だった伊吹を介抱してあげようと言い出したり、仲間からのリンチに遭う町子などを助けようとしている。「パラダイス」を作ることを提案した人物。
安井花江 – 山咲千里
通称『フーテンのろく』
仲間になり始めた頃から町子のことがあまり気に入っていなかった。せんのことを「兄貴」と呼んでいる。
乾美乃 – 長谷直美
通称『ジープのみの』
アメリカ人に対してせんほど憎しみを持ってはおらず、爆発する可能性のあるビルに怯えながら仕事を続けるより、戦争花嫁としてアメリカに行くことも悪くないとの考えを持っている。
本庄光代 – 芦川よしみ
通称『きすぐれ(泥酔、酒飲みなどの意味)のミッチ』
将来的には「パラダイス」を作り、娼婦を辞めてみんなでダンスホールの仕事をするのが夢。
柴田幸子 – 松岡知重
通称『ベイビー』
口が不自由で話せず、手話で意思表示している。ただし耳は聞こえるようで、せんたちの指示で動いている。
菊間町子 – 西川峰子
せんたちが娼婦の取り締まりから逃げている時に偶然出会ったモンペ姿の女。せんたちの仲間になると明るい色使いの着物を着て体を売るようになった。当初、陸軍中尉の夫を戦争で亡くした、大人しい未亡人を演じていた。しかし実際は気性の激しい女で後に袴田の妾になったり、せんたちを裏切る。
らくちょう一家
きたがわ澄子 – 名取裕子
通称『らくちょうのお澄』
らくちょう一家のリーダー。廃車のバスをアジトにしている。白や黒を基調としたドレスとつばの広い帽子と白手袋などのシックなファッションに身を包んでいる。お澄は洋装だが妹分たちの多くは和装で仕事をしている。ピアノが弾けるようで作中では『A列車で行こう』を弾くシーンがある。せんと会った頃は敵対していたが、タイマン(1対1の決闘)を経て、同士のような存在になる。
作中では「元は郵便局で働いていたが、戦後サージャン専門の娼婦になった」と語っている(詳しくはロバートの欄)。
大森銀子 – 松居一代
通称『血桜お銀』
お澄の妹分。仲間のテリーがせんたちにシメられたため、お澄の命令のもとケジメを付けさせるためにマヤのところへやって来た。
ビッグママお京 – マッハ文朱
お澄の妹分。長身で力が強い。テリーを痛めつけたマヤとタイマンで闘い、激しいケンカを繰り広げた。
テリー – 小野沢智子
お澄の妹分。せんたちのシマで体を売った(勝手に商売をした)ためにシメられた。
袴田組
袴田義男 – 根津甚八
袴田組の親分。自分のシマの商店街を「袴田組マーケット」として取り仕切っている。せんたちのアジトであるビルがある場所は作中では将来的に一等地になるとされ、ここを狙っている。白いパナマ帽をかぶっている。自身のシマにある川から進駐軍の遺体が上がり、その刺し傷から袴田組に容疑がかかる。本人によると「戦時中はフィリピンの山の中で戦友の肉を食って生き延びた」と言っている。
青木 – 汐路章
袴田組の組員。下っ端の組員のまとめ役。
大迫 – 志賀勝
袴田組の組員。詳細は不明だが、なぜかカタコトの日本語を話す。
サブ – 光石研
袴田組の組員。
その他
上海お時 – 椎名友美
新堀の愛子 – 久米朗子
ガモスのお蝶 – 勇家寛子
キヨミ – 福田直美
ロバート – ディック・バトルウォーサー
お澄の母と妹の仇。戦後進駐軍としてお澄の母と妹が営む散髪屋に仲間たちとやってきて、2人をレイプした後殺した。
キャプテンフォードオフィサー – クロード・チアリ
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