復活の日は、1980年公開の日本映画。角川春樹事務所とTBSが共同製作し、東宝が配給した。アメリカ大陸縦断ロケや南極ロケを敢行し、総製作費は25億円とも32億円ともいわれたSF大作映画。殺人ウイルスと核ミサイルの脅威により人類死滅の危機が迫る中、南極基地で生き延びようとする人々のドラマを描いた作品。
復活の日 映画批評・評価・考察
復活の日(英題:Virus)
脚本:32点
演技・演出:17点
撮影・美術:18点
編集:6点
音響・音楽:8点
合計81点
小松左京原作、深作欣二監督、撮影は木村大作。従来の邦画の製作規模を超越している上に、原作を忠実に映像化しようとした意気込みは相当なもので、公開当初は評論家や映画関係者に不評もあったものの、現在見ても見劣らないスケールと映像は感嘆し、賞賛すべきものだと思える。作品を知れば知るほど深作欣二の偉大さを感じざずにはいられない。
ストーリーは詰め込み過ぎもあり、シーンの切り替わりが多すぎで内容を理解するのには苦労するが、SFパニックムービーは元来そういうものなので、今作が特別なものではない。
主役を演じた草刈正雄が、男前なのはもちろん、ほぼ英語セリフでも違和感なく演じ切っている。
1970年代、角川春樹が社長に就任した角川書店では角川文庫を古典中心からエンターテインメントに路線変更を図り、特に日本のSF小説に力を入れていた。本作も早川書房から刊行されていたものを、1975年に角川文庫から再刊した。また当時、角川は映画製作事業も開始しており、いわゆる角川映画の一作として白羽の矢が立った。角川春樹は社長に就任するとすぐ小松に文庫化を依頼し、映画化の際には小松に「これを映画化するために会社を継いだ」と語ったという。角川春樹は自著でも「映画製作を行うようになったのは『復活の日』がきっかけ」、「この作品を作ることができれば、映画作りを辞めてもいいと。それくらいの想いがありました」と述べている。
企画開発は1974年に始まる。海外展開を視野に原作を英訳し、ジョン・フランケンハイマーやジョルジ・パン・コストマスらパニック映画の監督にシノプシスを送ったが関心を得られず。角川春樹はヤクザ映画を多く撮ってきたからミスマッチという周囲の猛反対の声をおして、深作欣二を監督に起用。撮影監督は東宝専属だった木村大作。小松左京の『日本沈没』を監督した森谷司郎も『復活の日』をやりたがっていたが、「監督は深作欣二か。大作と合うよ」と、『動乱』『漂流』で起用予定だった木村を送り出した。その他、深作監督の下、日活と東宝と東映からなる日本人スタッフとカナダ人の混成チームが組まれた。
壮大なスケールの原作の映像化にふさわしく、当初14億円から15億円の予定だった製作費は、南極ロケの実施により18億円になり、最終的には25億円に達した。
復活の日 あらすじ(ネタバレ)
英国籍の原子力潜水艦ネレイド号が東京湾・浦賀沖に浮上する場面から物語は始まる。マクラウド艦長は日本人科学者の吉住 周三を呼び出す。外部をモニターするカメラが映し出したのは廃墟と化した東京の成れの果てだった。吉住の心に別れた恋人・浅見則子の言葉が木霊する。フランス人科学者のラトゥール博士は採取した空気サンプルを研究のため持ち帰りたいと提案する。マクラウドは申し出を一度は却下するが、原子炉が隔離されて安全であると説かれ渋々ながら了承する。
人類は南極大陸に居る1000人足らずを残して絶滅した。一体どうしてこんなことになってしまったのか?物語はその発端となる出来事から再び始まる・・・。
マイヤー博士の研究室を伯父のランキン大佐が訪ねる所から始まる。米ソ冷戦は「雪解け」に向かおうとしつつあり、タカ派のランキンにとって面白くない。一方、マイヤーはある懸念で頭を抱えていた。自分が作成に携わったMM-88というウイルスが東側に渡ったというのだ。ランキンの来訪にマイヤーはウイルス奪還が出来たかと問う。だが、CIAはMM-88をまだ奪還出来ていなかった。MM-88は極低温下では活動を休止しているが気温が上がると活発化し、爆発的に増殖するモンスターウイルスだった。マイヤーは元々毒性がなかったMM-88にランキンが各大学で作らせた研究成果を合わせ耐性や毒性をつけBC兵器として完成させていたことを問い詰める。その事実をマイヤーがバークレイ上院議員に告発しようとしている事を知ったランキンは軍の息のかかった精神病院にマイヤーを隔離する。
日本では地震研究学者の吉住が南極観測隊に志願していた。則子は吉住に妊娠していることを伝え、別れを切り出す。吉住は親友の辰野安男と共に南極観測船「宗谷」に乗り込む。則子は辰野の妻好子と一人息子の旭と共に吉住を見送る。
一方、東ドイツの科学者は米国から盗み出した研究中のMM-88の毒性と脅威を知り、CIAを通じてサンプルをウイルス学の権威に渡しワクチン開発を依頼しようとしていた。だが、博士がCIAだと信じてサンプルを渡した相手はマフィアであった。彼らはアルプス上空で飛行機事故を起こしてしまい、MM-88の入った格納容器は破損する・・・。
人知れずMM-88が世に出た後、周辺の地域で異常な現象が相次ぐ。カザフスタンでは放牧中の牛が大量死し、イタリアでは嬰児と幼児を中心に感染が広まっていた。かつてのスペイン風邪に倣い「イタリア風邪」と通称された疾患は全世界に広まりつつあった。
米国大統領リチャードソンは事態を重く見て閣僚たちと対応策を練る。だが、爆発的な感染にワクチン精製が追いつかない。世界各国では暴動騒ぎにまで発展していた。バークレイはこの事態がBC兵器によるものではないかと指摘し、監禁中のマイヤーを救出。マイヤーは早速ワクチン精製に取りかかり、ランキンを拘束に追い込む。一方、タカ派のガーランド将軍は示威目的で自動報復システムの起動を進言するがリチャードソンに撥ね付けられる。
日本国内でも感染は拡大しつつあった。看護師である則子は土屋教授らと共に患者対応に追われる。院内で旭を連れた好子と出会った則子だが過労が祟り流産してしまう。恐るべき致死率の「イタリア風邪」は肺炎を引き起こし、各国首都を次々に壊滅させていく。
世界各国での「イタリア風邪」の猛威は南極に居る吉住たちの許にも届いていた。隊長の中西は各国の観測所と連絡を取りあい事態の把握に努める。家族を日本に残す隊員たちの動揺は広がりつつあり、日本に妻子を残す辰野は焦りを隠せない。病院で疲労困憊の則子は同僚や医師が死に絶える様を見て好子のことが気になりマンションを訪ねると好子は既に事切れていたが、別室にいた旭は無事だった。則子は旭を伴ってあてもなくボートを出し、青酸カリで自決する。そんな中、メキシコ在住の一人の少年が無線で昭和基地と通信する。だが、無線機の扱いを知らぬ少年は父親の銃で自死する。辰野の動揺は激しく、妻子の写真を抱えた辰野は南極の大地に姿を消すのだった・・・。
遂にウイルスはソ連指導者をも死に至らしめ、リチャードソンの妻も命を落とす。リチャードソンも遂に死を覚悟し、政敵バークレイと昔語りをするが、会話の中で南極にあるアムンゼン・スコット基地の存在を思い出す。基地の健在ぶりを知ったリチャードソンは最後の大統領令として南極に残る各国基地の越冬隊だけが最期に残された人類であると語り、決して外に出たり外から侵入者を許してはいけないと命令する。バークレイも事切れ、リチャードソンも静かに目を閉じる。だがガーランドは自動報復システムを作動させるのだった。
南極会議に赴くため、中西隊長と吉住はアムンゼン・スコット基地を目指して出発するが雪上車が座礁し、スキーで近くのノルウェー基地に向かう。だが、様子がおかしいため調査すると基地の隊員たちは争いの末に全員死亡していた。そんな中、奥の扉から何者かが覗いていることに気付いた吉住は臨月間近の黒髪が美しい女性が隠れていることに気付く。彼女の名はマリト。口論の果てに銃撃戦となり、夫に隠された彼女だけが惨劇を免れたのだった。お産が近いマリトのため吉住を残し、中西は南極会議に向かう。
米軍のコンウェイ提督とソ連のボロジノフ博士は互いの遺恨を忘れて南極会議の中心に立つがヤルタ体制をなおも持ち込もうという態度にチリの隊員から不満が表出したのを皮切りに国家間の争いでまとまろうとしない。苛立つカーター少佐は天井に向けて発砲し、会議を鎮める。そんな中、ノルウェー基地の吉住から無線で無事に子供が産まれたのでマリトから名付け親になって欲しいという依頼が伝えられ、会議の最初の決議は最初の南極産まれとなった子にグリーと名付けることになった。
しかし、危機は続く。男性に対する女性の割合があまりにも少なすぎるためレイプ事件が起き、女性は貴重な資源として南極政府は性交渉を管理することとなる。
更にソ連の原子力潜水艦が救助を求めて寄港。だが、船内に感染者を抱えていた。ボロジノフ博士は寄港を許可できないと退けるが艦長のネフスキー大佐は上陸を強行しようとする。その窮地を救ったのは英国の原子力潜水艦ネレイド号だった。ネレイド号はソ連原潜を撃沈し、自らは去ろうとするが感染者が出ていないことを確認されて入港を許可される。こうして新たにネレイド号の乗員が南極政府に加わった。
南極最初のクリスマスを迎え、マリトと再会した吉住は彼女への好意を意識するが、マリトはクジで選ばれた別の男性と一夜を過ごすのだった。
こうして冒頭の場面に戻り、偵察航海を終えたネレイド号は南極に帰港する。ウイルスの脅威はなおも健在であった。ラトゥール博士はウイルスのサンプルと格闘を続ける。
そんな中、吉住が新たな脅威の種を発見する。近くワシントンDCの近郊で巨大地震が発生するというものだった。遠く離れた南極とは無関係と思われたが自動報復装置が作動していた場合、核攻撃と誤認して報復用のICBMが発射される。マクラウドは自動報復装置の作動を確認していた。米ソは互いの南極基地をも照準していた。一刻も早く装置を解除しなければ南極を核ミサイルが襲うことになる。ネレイド号と行動を共にする決死隊の人選が行われ、カーターはこんなものは馬鹿げているとして自ら志願。吉住は自分が選ばれたと嘘をついて同行を申し入れる。カーターは吉住の理解しがたい行動に暴力をもって説得しようとするが吉住の決意は変わらない。遂には根負けし、「Life is Beautiful」は日本語ではなんというのだと尋ねるのだが吉住はダウンしていた。
二人を送り出すささやかな壮行会が催され、カーターはコンウェイの秘蔵のウィスキーを。吉住にはマリトが与えられた。二人の任務はホワイトハウス地下にある自動報復装置の停止だった。万一の場合に備えて女性を中心とした一団は砕氷船で避難することになり、ラトゥールが開発したワクチンのサンプルが二人に渡される。
こうして大西洋に向かったネレイド号から二人がポトマック川を遡りホワイトハウスに潜入する。だが、既に余震が始まっていた。カーターと吉住は決死の行動で装置作動を食い止めようとするが時既に遅く、核ミサイルは発射されてしまう。カーターは今際の際で先刻の質問を吉住に浴びせる。吉住の答えは「人生はいいものだ」だった。
ラトゥールの作成したワクチンは有効だった。ただ一人生き残った吉住はアメリカ大陸を徒歩で縦断する。精神を病み死者の声を聞いても吉住は歩みを止めようとはしない。やがて吉住はチリ南端にある集落へと辿り着く。其処には核攻撃から避難したマリトやラトゥールたちが小さな集落を作っていた。マリトに迎えられた吉住は「Life is beautiful」と口にするのだった・・・。
復活の日 スタッフ
製作:角川春樹
監督:深作欣二
原作:小松左京(角川文庫版)
プロデューサー:岡田裕,大橋隆
脚本:高田宏治,深作欣二,グレゴリー・ナップ
撮影:木村大作
撮影補佐:岸本正広
照明:望月英樹
美術:横尾嘉良
美術助手:小川富美夫
録音:紅谷愃一
編集:鈴木晄
記録:小山三樹子
演出補佐:高須準之助
制作担当:長岡功,スーザン・ルイス,天野勝正
助監督:藤山顕一郎,吉田一夫,手塚昌明,ジェシー西畑
音楽プロデューサー:テオ・マセロ
音楽:羽田健太郎
音楽監督:鈴木清司(鈴木音楽事務所)
音楽監督補佐:高桑忠男(東映音楽出版)
主題歌:ジャニス・イアン「ユー・アー・ラブ(Toujours gai mon cher)」
作詞:ジャニス・イアン
作曲:テオ・マセロ
翻訳:清水俊二、戸田奈津子
現像:東洋現像所、フィルムハウス(トロント)
角川春樹事務所・東京放送提携作品
復活の日 キャスト
南極日本隊
吉住周三:草刈正雄
辰野保男:渡瀬恒彦
中西隊長:夏木勲(夏八木勲)
山内博士:千葉真一
真沢隆司:森田健作
松尾明正:永島敏行
隊員:角川春樹,高月忠,畑中猛重,幸英二,五野上力
南極アメリカ隊
コンウェイ提督:ジョージ・ケネディ(吹替:大宮悌二)
カーター少佐:ボー・スヴェンソン(吹替:羽佐間道夫)
サラ・ベーカー:ステファニー・フォークナー
無線係:ニコラス・キャンベル
南極ソ連隊
ボロジノフ博士:クリス・ウィギンス
ネフスキー大佐:ジョン・エヴァンス
南極ノルウェイ隊
マリト:オリヴィア・ハッセー(吹替:武藤礼子)
グリィ:ジョアン・ベンダム
各国南極観測隊
ロペス大尉:エドワード・ジェームズ・オルモス
ラトゥール博士:セシル・リンダー
イルマ・オーリッチ博士:イブ・クロフォード
ネレイド号乗組員
マクラウド艦長:チャック・コナーズ(吹替:大塚周夫)
ジョーンズ大尉:ケン・カメルウ
T232号乗組員
スミノルフ少尉:ジャン・ムジンスキー
電探係:チャールズ・ノースコート
日本本土
土屋教授:緒形拳
浅見則子:多岐川裕美
辰野好子:丘みつ子
辰野旭:加瀬悦孝
田所助教授:木島一郎
助手:野口貴史
別の助手:小林稔侍
病院の母親:中原早苗
その娘:渡辺有希子
アメリカ本土
リチャードソン大統領:グレン・フォード(吹替:田中信夫)
バークレイ上院議員:ロバート・ヴォーン(吹替:矢島正明)
ガーランド将軍:ヘンリー・シルヴァ(吹替:小林清志)
ランキン大佐:ジョージ・トゥリアトス
マイヤー博士:スチュアート・ギラード