仁義なき戦いは、1973年公開の日本映画。やくざ同士の抗争を題材にしながら仲間を裏切り、裏切られることでしか生きられない若者たちが描かれている。本作では様式美をまったく無視して、殺伐とした暴力描写を展開させた点、ヤクザを現実的に暴力団としてとらえた点、手記→実話小説→脚本→映画という経緯、実在のヤクザの抗争を実録路線として、リアリティを追求した作品として新しい時代を築いた。本作はヤクザを主人公にしているが、優れた群集活劇でもあり、暗黒社会の一戦後史でもあり、青春映画であり、自己啓発としての側面もある。基本的に娯楽映画/エンターテイメントであるため、登場人物に感情移入させるためにもヤクザを魅力的な存在であるかのように描いており、犯罪者を美化しているとする批判もつきまとうことになる。
仁義なき戦い 映画批評・評価・考察
仁義なき戦い
脚本:36点
演技・演出:19点
撮影・美術:15点
編集:10点
音響・音楽:10点
合計90点
日本映画史に実録ものを生み出した画期的な作品で、深作欣二監督の代表作の一つになりました。この映画の音楽も演出も独特のものであり、創作分野で今日でも影響を与え続けています。複数の登場人物による物語の進行も任侠版ゲームオブスローンズやワンピースみたいなもので、非常によく出来た構図です。ワンピースはモロに影響を受けています。個人的にツボった演出は、広能昌三(菅原文太)が出所後に、坂井鉄也(松方弘樹)に会い来た際、昌三が自分を殺しにきたと勘違いした坂井の怯え方が、大袈裟なようでリアルなようで松方弘樹だったのが印象的でした。ラストシーンのピストル乱射後、「山守さん、弾はまだ残っとるがよう」のセリフは痺れました。演出で主人公の思いを語らせる最高のシーンでした。
仁義なき戦い あらすじ(ネタバレ)
敗戦直後の広島県呉市。戦地から帰ってきた若者・広能昌三は、山守組組員達に代わって刀を振り回す暴漢を射殺し、刑務所に収監される。そこで呉の大物ヤクザ土居組の若衆頭の若杉寛と知り合って義兄弟となり、彼の脱獄を手伝ったことから、彼の計らいで保釈される。そして逮捕の原因と、土居組の友好組織ということから、広能は山守組の組員となる。
間もなく呉の長老・大久保の手引きにより、市議選に絡んで山守組と土居組は敵対関係となる。広能との関係から穏便に解決したい若杉に対し、山守組幹部の神原が裏切って土居につき、山守組は組織力に勝る土居組に追い詰められていく。ついに山守組は、組長の土居清暗殺を計画し、名乗りを挙げた広能に山守義雄は出所したら全財産を渡してやると感謝する。かくして広能は土居に重傷を与え、再び刑務所に収監される(土居は間もなく死去する)。一方、若杉は義侠心から裏切り者の神原を殺害して高飛びしようとするが、何者かによって警察に密告され、射殺される。
組長と若頭が亡くなったため壊滅した土居組と対称的に山守組は朝鮮特需で財をなし、呉を代表する大組織となる。しかし、組織が大きくなったがゆえに、ヒロポンなどによる稼ぎを巡って若衆頭の坂井鉄也一派と幹部の新開宇市一派の内紛劇が起き始める。坂井は山守に親として解決を迫るものの、山守はのらりくらりとかわす上に、新開派の不満の原因の1つでもあった子から奪ったヤクの横流しまでしていた。ついに業を煮やした坂井は山守から組の実権を奪い、内部抗争の果てに新開も暗殺するのだった。
講和条約の恩赦で広能が仮釈放されることとなり、ただちに山守は彼に接近して坂井の暗殺を頼み込む。山守に不快感を持つものの親子の仁義を通すか迷う広能は、偶然、坂井と出会う。広能は暗殺の話を明かした上で坂井に和解を説くが、逆上した坂井は山守を強制的に引退させ、対立する古株の矢野も殺害する。広能は坂井派の槙原に呼び出されるが、そこには山守がおり、広能は槙原の正体を理解する。山守は坂井を襲わなかった広能を非難し、再び協力を迫るが、広能は山守・坂井双方を非難して、山守との縁を切り、けじめとして坂井を殺すことを宣言する(その際、若杉の密告者が山守・槇原だと示唆される)。
単身で坂井を襲撃した広能だったが、事は成せず逆に捕まってしまう。しかし、坂井は弱気になっている胸中を明かした上で、広能を生かしたまま解放する。そして、その直後に坂井は暗殺されてしまう。
後日、広能は大規模な坂井の葬儀の式場に平服姿で現れる。山守達によって営まれていることを確認すると、坂井の無念さを代弁するかのように、拳銃を供物に向かって発砲する。
仁義なき戦い スタッフ
監督:深作欣二
企画:俊藤浩滋・日下部五朗
原作:飯干晃一
脚本:笠原和夫
撮影:吉田貞次
音楽:津島利章
録音:溝口正義
照明:中山治雄
美術:鈴木孝俊
編集:宮本信太郎
助監督:清水彰
スチル:藤本武
進行:渡辺操
仁義なき戦い キャスト
山守組(モデル・山村組)
もともとは闇市の土建屋だったが若者たちを集めて博徒「山守組」となる。土居組壊滅後、呉の覇権を握り大組織となるが統制がとれず内部抗争がおきる。
山守義雄(モデル・山村辰雄)(演者・金子信雄)…山守組組長。吝嗇、臆病、狡猾な策士。朝鮮特需で富を得て県有数の実業家になるが子分からの人望はまるでない。自分の地位を守るため子分同士を争うように仕向ける。
坂井鉄也(モデル・佐々木哲彦)(演者・松方弘樹)…山守組若衆頭。組を公平に運営しようとするが山守の策謀もあって、これに不快を示す幹部仲間を次々と粛清する。子供への土産を買っている最中に射殺される。
広能昌三(モデル・美能幸三)(演者・菅原文太)…山守組若衆(幹部)。物語の主人公。復員して鬱屈した日々を過ごしていた時にひょんなことから山守組のために殺人を犯し服役する。すぐに出所して組員となるが土居組との抗争やその結果の長期間の服役を経験し、出所後は内部抗争に巻きこまれていく。山守と坂井を和解させようとするが、両方に裏切られる形となる。坂井の葬儀の場でピストルを乱射。
矢野修司(モデル・野間範男)(演者・曽根晴美)…山守組若衆(幹部)。坂井に対抗。坂井の子分たちに殺される。
神原精一(モデル・前原吾一)(演者・川地民夫)…山守組若衆(幹部)。裏切って土居組につく。若杉に頭を撃たれ殺される。
槙原政吉(モデル・樋上実)(演者・田中邦衛)…山守組若衆(幹部)。坂井の手下のように振舞うが裏では山守と内通している。
山方新一(モデル・山平辰巳)(演者・高宮敬二)…山守組若衆(幹部)。広能の親友。有田たちに殺される。
新開宇市(モデル・新居勝巳)(演者・三上真一郎)…山守組若衆(幹部)。坂井に対抗。坂井の子分たちに駅構内で殺される。
有田俊雄(モデル・今田泰麿)(演者・渡瀬恒彦)…映画では山守組若衆。新開の舎弟。ヒロポン密売グループのリーダーで禁止させようとする坂井と激しく敵対する。
岩見益夫(演者・野口貴史)…山守組若衆。広能を慕う。
杉谷伸彦(演者・宇崎尚韶)
川西保(演者・宮城幸生)
山守利香(モデル・山村邦香)(演者・木村俊恵)…山守義雄の妻。広能に指のつめ方を教える。
新庄秋子(演者・渚まゆみ)…山方の女。さらに坂井の女へ。
土居組(モデル・土岡組)
土居清(モデル・土岡博)(演者・名和宏)…土居組組長。広能に暗殺される。
若杉寛(モデル・大西政寛)(演者・梅宮辰夫)…土居組若衆頭で後に山守組につく。広能の兄貴分で広能から慕われていた。広能逮捕後、山守の本性に気付き神原射殺後に逃亡中の隠れ家を警察に踏み込まれ射殺される。密告者は山守か槙原と推測される。
江波亮一(演者・川谷拓三)…土居組若衆。
野方守(演者・大前均)…土居組若衆。
国広鈴江(演者・中村英子)…若杉の女。
寺内八郎(演者・池田謙治)
貫田秀男(演者・司裕介)
水谷文次(演者・有田剛)
海渡組(モデル・岡組)
松永武(演者・林彰太郎)
垣内次郎(演者・国一太郎)
打森昇(演者・藤本秀夫)
吉永進(演者・西山清孝)
柳田敏治(演者・壬生新太郎)
川南時夫(演者・木谷邦臣)
坂井組
大竹勇(演者・大木吾郎)
高野真二(演者・西田良)
西谷英男(演者・笹木俊志)
石堂寅雄(演者・松本泰郎)
上田組(モデル・小原組)
屋代光春(演者・平沢彰)
古屋誠(演者・白川浩二郎)
倉光正義(演者・藤沢徹夫)
有田組
横川信夫(演者・志賀勝)
下中隆次(演者・福本清二)
安条啓介(演者・奈辺悟)
広石金作(演者・藤長照夫)
新開組
脇田登(演者・友金敏雄)
矢野組
目崎武志(演者・片桐竜次)
楠田丈市(演者・北川俊夫)
その他
大久保憲一(モデル・海生逸一)(演者・内田朝雄)…呉の長老。山守組結成の媒酌人。
上田透(モデル・小原馨)(演者・伊吹吾郎)…愚連隊上田組組長から山守組舎弟に。大久保の親戚。縁日の夜に若杉により片腕を切り落とされる。
着流しのやくざ(演者・岩尾正隆)…旅の人。山守組のシマで酒に酔って暴れ、刀を振り回しているところを広能に射殺される。
金丸昭一(演者・高野真二)…呉市会議員。
中原重人(演者・中村錦司)…呉市会議員。
前川巡査(演者・江波多寛児)
けい子(演者・小島恵子)…娼婦
中村捜査係長(演者・唐沢民賢)
珠美(演者・榊浩子)…キャバレーのホステス
山城佐和(演者・小林千枝)…不良米兵に襲われた後パンパン。
国弘とめ(演者・東竜子)…鈴江の母
加谷刑事 (演者・山田良樹)
小室刑事 (演者・疋田泰盛)
洋品店主人 (演者・村田玉郎)
看守(演者・小田真士・大城泰・松田利夫)
三国人(演者・小峰一夫)
警官(演者・波多野博)
初子(演者・高木亜紀)
※ ナレーター…小池朝雄