悪霊島(あくりょうとう)は、1981年公開の日本映画。横溝正史による最後の長編小説『悪霊島』を映画化。昭和40年代の瀬戸内を舞台にした連続殺人事件を追う金田一耕助の活躍を描く。原作発表から直ちに映像化された作品。原作発表の年に発生したジョン・レノン暗殺のニュースを本編に折り込むという方針から、物語のキーマン・三津木五郎が、1980年の現在から本編で描かれた刑部島事件のあった約10年前の1969年(原作の設定より2年遅い)を回想するという形式に変更されている。本作完成直後に横溝正史が逝去し、結果的にこの弔報が逆に集客に一役買った。
挿入歌にビートルズの「レット・イット・ビー(Let It Be)」、同じく「ゲット・バック(Get Back)」を使用し作品に強い印象を残していた。1980年代のTV放送時と東芝EMIから発売されたビデオソフトは公開当時のオリジナル版だったが、後年これら楽曲の使用権が切れたためTV放映・ソフト発売がされず、長らく幻の作品となっていた。2004年にようやくDVDが発売されたものの楽曲部分は別歌手によるカバー版に変更されており、近年のCS等でのテレビ放映においてもその変更版が放映されている。
公開時キャッチコピーは「鵺の鳴く夜は恐ろしい…」。
悪霊島 映画批評・評価・考察
悪霊島(あくりょうとう)
脚本:30点
演技・演出:16点
撮影・美術:14点
編集:6点
音響・音楽:7点
合計73点
時代をかなり印象づける演出があることやビートルズの楽曲を使用していることなど、金田一シリーズの中では異色さが目立つ作品でした。好き嫌いが出やすい作品です。個人的に篠田正浩監督なので映像に特色が出るのかな?と思っていたのですが、なんか違う方向に行ってしまった感じがするものでした。今作品最大の見所は岩下志麻の他作では見られないような演技・演出のように思えます。狂気を演じた目や表情がとても怖く、それが画面越しに伝わってくるものでした。
悪霊島 あらすじ(ネタバレ)
ジョン・レノン暗殺のTVニュースを見ながら、三津木五郎は一九六七年の恐ろしい事件を思い出していた。当時、大学を出たばかりの五郎はヒッピー姿で放浪中、瀬戸内海の刑部島で、金田一耕助と出会った。その頃は、ビートルズの“ゲット・バック”が流行っていて、五郎のトランジスタ・ラジオからもよく流れていた。金田一はその島出身で、アメリカ帰りの億万長者、越智竜平の依頼で人を探しに来ていたのだ。
島とフェリーで結ぶ岡山県下津井港で、海に漂う仮死状態の男が上がり、「あの島には悪霊がとりついている、鵺の鳴く夜は気をつけろ……」と言葉を残して息を引取った。そこで、金田一は別の事件で来ていた磯川警部と出会い、死体の男が金田一の探している男と同一人物であることを聞く。磯川は浅井はるという市子でもぐりの産婆の殺人事件で来ていた。事件の前に、磯川は、はるから手紙を受け取り、二十年以上も昔、赤ん坊を取り上げたことで恐喝をしていたが、それが原因で誰かに狙われていると書いていた。はる殺しの目撃者はうす汚い風体の男を見たと言う。
島へ渡った金田一は、島の実力者、刑部大膳の経営する宿に泊った。大膳は、かつて相思相愛の仲だった刑部神社の娘、巴(現在の巴御寮人)と竜平の仲を裂いて、守衛と結婚させたことがある。巴にはふぶきという双生児の姉がいるが、脳を患って離れに住んでいる。さらに巴には双生児の真帆、片帆という娘がいる。金田一が探していた男は、島にレジャーランド建設を目指す竜平の派遣した尖兵だった。祭りを控え賑わう島へ、その竜平が凱旋帰郷した。
数日後の夜、巴の婿である守衛が竜平が寄進した黄金の矢で胸を刺されて死んでいるのが発見された。さらに、行方不明だった片帆も絞殺死体で見つかった。その頃、はる殺しの目撃者の見た男が五郎と判明した。五郎によると、死んだ母に自分は貰われた子であり、はるによって取り上げられたことを聞いたのだ。そして、はるの手帳に、自分の生まれた年に巴が子供を生んでいるのを見つけ、彼女が母親かもしれないと思い、再度、はるを訪ねると彼女は殺されていたという。
二十数年前、巴はそこで、竜平の子を産んでいたのだ。二十数年前、竜平と巴は鵺の鳴き声を合図に逢瀬を重ねていた。結局、守衛の殺人犯はふぶきと断定されるが、金田一は納得出来ない。ふぶきが若い頃に過した広島に向った金田一は、原爆で彼女が死んだらしいことをつきとめる。
島に戻った金田一は磯川にふぶきは存在せず、犯人は巴であると話す。巴は竜平と別れたショックで、刑部神社を継ぐ女と、ひたすら男を求める狂った女の二重人格となった。そして、責任を感じた大膳は死んだふぶきを復活させ、巴が狂うと、ふぶきに仕立て離れにかくまったのだ。
大膳を本当の刑部神社のある洞窟に追い込んだ金田一は、そこで、腰の繋がった双生児の骸骨を見た。それこそ、巴が産んだ竜平の子だ。そして、狂った巴が抱き、秘密がバレるのを恐れて殺された男たちのいくつもの骨。竜平に依頼され金田一が探していた男もその一人だ。そして、守衛を殺したのは、彼が竜平にレジャーランド用地として神社の土地を売ってしまったのを正気の巴がつきとめて殺したこと。片帆は父を探しに島に来ていた兄弟の一人との逢引きを巴に見つかり、嫉妬に狂った彼女に殺されたことをつきとめた。そこへ、狂った巴が竜平を連れて現れた。また、二人を追って、巴を守ってきた吉太郎もやってきた。蝋燭の消えた闇の中、もつれる音がして再び火が灯ると、竜平ともみあった吉太郎の死体。そして、巴は双子の骨のところへ走りよろうとして深い穴に落ちて死んでしまった。放心した大膳は吉太郎の銃で自らを射つのだった。島を離れる金田一。“レット・イット・ビー”が流れている。
悪霊島 スタッフ
監督:篠田正浩
脚本:清水邦夫
原作:横溝正史
製作:角川春樹,橋本新一(プロデューサー),飯泉征吉(プロデューサー)
音楽:湯浅譲二
撮影:宮川一夫
編集:浦岡敬一
製作会社:角川春樹事務所
配給:東映洋画/日本ヘラルド
悪霊島 キャスト
金田一耕助:鹿賀丈史
磯川警部:室田日出男
三津木五郎:古尾谷雅人
越智竜平:伊丹十三
巴御寮人 / ふぶき:岩下志麻
真帆 / 片帆:岸本加世子
尾道の御寮人:宮下順子
広島の御寮人:二宮さよ子
松本克子:中島ゆたか
越智多年子:大塚道子
浅井はる:原泉
広瀬警部補:武内亨
妹尾四郎兵衛:嵯峨善兵
荒木定吉:鷹瀬出
刑部辰馬:多々良純
刑部守衛:中尾彬
刑部大膳:佐分利信
吉太郎:石橋蓮司
女中とめ:根岸季衣
漁夫:浜村純