典子は、今(のりこは、いま)は、1981年公開の日本映画。サリドマイド禍を克服して、熊本市職員として働く辻典子さんの半生を本人の主演で描く。実在のサリドマイド病患者である辻典子(現:白井のり子)の半生を描いたセミ・ドキュメンタリー的な映画で、辻が本人役で主演している。身体障害者の社会参加を力強く訴えた作品として注目された。
典子は、今 映画批評・評価・考察
典子は、今
脚本:40点
演技・演出:20点
撮影・美術:20点
編集:10点
音響・音楽:10点
合計100点(満点)
初見時の衝撃の強さは、当時子供だった自分にトラウマではなく、人間の強さのようなものを感じた映画でした。本人が自分役を演じているのでドキュメンタリーのようにも思えますし、作品にウソがありません。
主演の典子さんが強いんですよ。ともかく強い。人として強さは自分の何十倍も何百倍も強い。そう感じる映画でした。
ご本人の回顧録で、この映画の大ヒットにともない世間の大きな話題を集めたことで、世間的に自分は障碍者なんだということを思い知らされたと話されています。映画を見れば、彼女は本当に器用ですし、性格もポジティブで、ご本人自身は障碍者だと思ってないことが伝わってきます。だからこそ、ものすごく傷ついたんじゃないかな?って思います。社会が彼女を一方的な知見で障碍者にしたということです。
名のある大物俳優がどんな演技力を持っていたとしても彼女を演じることはできないと思いますし、彼女の人としての魅力や強さを感じる映画でした。多くの学びもある作品ですし、こういう作品は公共機関の映像ライブラリーなどで見られるようにした方が良いと思います。
典子は、今 あらすじ(ネタバレ)
昭和三七年一月、松原典子は両腕が退化したサリドマイド児として誕生した。「人間には手と足が二本ずつあるのだと私がはじめて気がついたのは五歳の時でした」高校卒業を間近に控えたある日、淡々と話す典子の言葉にクラス全員は息をのんで聴き入っていた。
両腕のない典子の小学校入学の壁は厚かった。知能も健康にも優れた典子が両腕がないというだけの理由で入学を拒否された。典子の母はその時、狂ったように泣いた。「あの日から今日まで私も母も泣いたことはありません。泣いたってどうにもならないことを知ったからです」最後に、碩台小学校の先生が「この子に障害はない、手がなく不便なだけだ」と入学を許下してくれた。
それ以来、典子は、残された足で何が出来るか挑み続けた。習字、そろばん、運動会のリレーではバトンをくわえて一着になった。先生にしがみつくことの出来ない典子は噛みつくことで喜びを表現した。白髪の増えた母を見て、大学へ進んでデザイナーになる夢を捨て、典子は社会へ出る決意をする。熊本市役所が公務員を募集していた。典子は二六倍の難関を突破して、見事に合格した。熊本市、市民局福祉課。足で書類をめくり、そろばんをはじく。サリドマイド児として初めての社会人の誕生だ。
典子は文通を続けていた広島の障害者、富永みちこを訪ねようと決心する。はじめての一人旅を心配する母に、いずれ一人で生きていかなければならないのだからと典子は説得する。たった一人で広島にたどりついた典子は、富永みちこが自殺して世を去ったことを聞く。みちこの兄は典子を釣りに誘って、妹は障害に負けたのだと語った。「わしが可愛がりすぎたんだ」とも言った。そして「お前は死ぬなよ。負けるなよ」と涙ぐんだ。
典子の竿に激しい当りが来た。横転しながら足で竿を上げる。大きなはまちが宙に舞い、小舟の中を跳ねまわる。魚を抱えこんだ典子の胸に生命の躍動が伝わってきた。
典子は、今 スタッフ
監督:松山善三
脚本:松山善三
製作:高橋松男,柴田輝二
音楽:森岡賢一郎
撮影:石原興
編集:園井弘一
製作会社:キネマ東京,シバタフィルムプロモーション
配給:東宝
典子は、今 キャスト
松原典子:辻典子(少女時代:若命真裕子)
昭和37年1月生まれ。熊本市立高等学校に通う高校生。努力家で朗らかな性格で友達には手がないことを冗談で返すなどしている。同級生からは「クラスの中では頭が良い」と評されており、当初は、グラフィックデザイナーを目指して大学進学を考えていた。健常者が手でやる一般的な行動を努力を重ねて足でできるようなったため、足がかなり器用。
松原春江:渡辺美佐子
典子の母。団地の4階で典子と暮らす。典子が物心付く頃から食事、読み・書き・そろばんを足がかりに徐々に足を使って一人で色々とできるよう教えてきた。典子に愛情を注ぎながら世間の偏見や差別に負けないようにあえて娘に厳しい態度を取ることもある。典子によると忍耐強い性格とのこと。心の中では典子の将来を心配しながらも、普段は娘と時に口喧嘩を交えて賑やかに過ごしている。若い頃は病院の住み込み看護婦をしていたが、典子が高校3年生の頃に辛子蓮根の加工工場で働き始める。
現在の典子と関わる人たち
楠(高校教師):河原崎長一郎
典子のクラス担任。授業で「将来の夢」というテーマで一分間スピーチをさせた所、個性的だが突拍子もないことを言う生徒がいたため驚く。学校に訪れた春江と典子の進路相談を話合う。
高校の校長:伊豆肇
進路に悩む典子のことを楠から聞いて後日彼と共に彼女の自宅に訪れ、春江たちに熊本市役所の募集の話をする。その後典子のために公務員採用試験の会場まで楠たちと見送りに来り、後日結果発表を見に行き電話で彼女に伝える。
須藤友子:日高由
典子の親友。いつも典子を含めて6人ぐらいで学校やその行き帰りなどに行動を共にし、雑談を交わすなどして過ごしている。
増田華子:稲田智美
典子の親友。高校3年の時点で母親からの勧めで医者の卵と見合いをする。勉強は苦手なため大学進学は考えていない。
学友:小柳さとみ、木村美智子
他の典子の親友と同じく、必要な時には手助けしながらも障害者として同情などはせず友達として彼女と接している。典子の受験日には他の友達や楠とトランプなどをして数時間を過ごす。
富永健一:三上寛
広島県大竹市の阿多田島でつねと暮らす青年。漁師で海辺で養殖業をしている。明るく妹思いな性格で子供の頃から妹・みちこをかわいがってきた。趣味はギターの弾き語り。妹を訪ねてきた典子に歌を聞かせたり、仕事場である海で魚釣りを体験させるなどして一緒に過ごす。
富永つね:鈴木光枝
健一の母。小児マヒにより車いす生活を続けてきた20歳のみちこを亡くして間もない状態で、自宅を訪ねてきた典子に娘の面影を重ねる。「跳んだり、はねたり、泳いだり」や「とんぼ、たんぽぽ、ひばりのこ」などの歌詞のややコミカルな歌を健一と一緒に歌って典子に聴かせる。
過去のシーンにだけ登場する人たち
春江の夫:長門裕之
子供の出産を待ち望んでいたが、生まれた娘(典子)が薬害のせいで両手が極端に小さく生まれたことにショックを受ける。娘の将来を悲観して独断で外科医に頼んで娘の腕の切除手術をしてもらった後、春江に“この子は物心付く前に交通事故で両手を失くした”ことにするよう告げるが、そのまま妻の前から蒸発した。
松崎(養護学校校長):下條正巳
全寮制の学校で本人によると比較的障害の軽度な生徒が学んでいるとのこと。「典子をこの学校に入学させたい」と頼みに来た春江と会話をする。
小学校校長:鈴木瑞穂
典子に簡単なテストをして知能に問題がないことを確認し、「この子は手がなくて不便なだけだ」と入学を許可する。入学式で典子に手のないことを伝えて彼女が困った時は皆で協力してあげるようお願いする。
広瀬先生:樫山文枝
典子の小学校時代のクラス担任。小学入学年齢に達した典子を校長と共に簡単なテストをする。入学直後の典子のクラスメイトに典子のことで約束事を伝える。思いやりのある性格で学校生活を送る典子を優しく見守る。
その他
児童相談所の職員:稲垣昭三
島村洋子:木村仁美
(役名不明):西園寺章雄